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K氏は、「タレント」という言葉をめぐって書いた随筆がある。
私も芸者や芸人こそが、才能という本来の意味からすれば「タレント」と訳されるべきだと思うが、それはともかく、テレビ番組で一緒になった女性「タレント」が、こう言ったという。
「あたし外人に生まれたかった」少年少女は、髪や肌、そして目の色まで変え、「『一等国』に相応しい日本男子」と日本女子になろうとしているのである。
ファッションデザイナー山本耀司は、西洋のものは日本のものよりも優れていると信じ込まされ、欧米を見習い、日本文化を無視するように教育されたとして、自らの世代を「さまよう世代」と命名している。
「さまよう世代」の帰結は簡単に想像がつく。
小松左京の小説『日本沈没』は日本がなくなるまでを描いているが、その後の日本人を想像してみるがいい。
それこそ、日本人が世界中をさまよったら、ユダヤ人のように二〇〇〇年後も日本人としてのアイデンティティーを持ち続けているだろうか。
文化普及の先兵、科学技術模倣が中国、ヨーロッパで、アメリカだった。
アメリカは、自ら模倣しただけでなく、模倣を強制された。
三つの模倣に共通しているのは、すべて科学技術の遅れを自覚して、始まっていることだ。
日本人は、最新の科学技術を手に入れるためには、どんな犠牲もいとわなかったとも言える。
江戸時代までの教育を見ればわかるように、自らの歴史を振り返ることもなく、歴史までも犠牲にしてきた。
第二次世界大戦の敗戦は、科学技術の差によるものだと認識し、また認識させようとしたことは、終戦直後の八月二十日、『朝日新聞』に掲載された「科学立国へ」によく表われている。
」科学技術を取り入れるとき、日本は西洋の科学技術の背景にある思想性と相容れない自国文化を破棄することを選択してきた。
そのほうが、西洋の科学技術を効率的に導入でき、社会的コストが安かったからである。
敗戦後は廃棄を強要されたため、自国文化廃棄は一層、大規模なものとなった。
欧米は自国文化の普及に使命感を持っていた。
かつてカトリックが、便利なものを与える代わりに宗徒になるようにして布教したように、科学技術は文化普及の先兵となることが多かった。
文化の野蛮人、マッカーサー占領時代、ダグラス・マッカーサーは最高権力者として、文化面も含めて日本のすべての政策決定権を持っていた。
マッカーサー本人の文化的な行為を、いくつかの資料をつき合わせると、彼の副官だったフォービアン・パワーズの証言にほぼ間違いない。
バイブルを除いて一冊も本を読まない。
見るのは映画だけ。
それも西部劇ばかりだ」そし音楽を専門的に学んだことのあるパワーズはマッカーサーをこう結論付けている。
「マッカーサー元帥は文化の野蛮人」と。
そのマッカーサーは文化行政は担当者に任せきりで、彼が文化面で唯一関心を持っていたことはキリスト教の普及だった。
マッカーサーが民間情報教育局(CIE)の担当者に「キリスト教徒は戦前日本に何人いて、戦後何人になったのか」というメモを送った。
「戦前は二〇万人で、戦後は二万人」と答えたところ、それでは十分ではないということで突き返されたので、ゼロをいくつか適当に書き加えたメモをCIE局長はマッカーサーに提出した。
マッカーサーは、届いたメモをもとに「この国には戦前には二〇万人いたキリスト教徒が、いまでは二〇〇〇万人になっている」と演説した。
パワーズ自身が「正確なことは忘れた」と述べているように、マッカーサーの記録にはそういった発言を確認できない。
ただ、戦後、つまり自分の力によって、日本でキリスト教徒が増加したと誤解していることは次のような資料から確認できる。
マッカーサーは、アメリカのある新聞にこういう手紙を送っている。
「私たちはむろん、キリスト教思想の歴史的発展を研究することをできるだけ奨励するつもりである。
キリスト教のゆるぎない教義に占領政策のあらゆる面を適合させ、また占領軍の全員がそれを実践するという生きた模範を示していることにより、必然的にキリスト教についての初歩的な理解が生まれてくると思う。
多くの人々が正式にキリスト教に帰依しているほか、国民の大きい部分がキリスト教の根底をなす原則と理想を理解し、実践し、敬愛しようとしている。
」マッカーサーは回顧録にこうも書いている。
「ポケット版聖書連盟は私の要請で一千万冊の日本語の聖書を配布した。
占領期間中に、日本は徐々にではあったが、はっきり精神的な衣がえがはじまってきた」日本を統治していた最高権力者には、政教分離などということは眼中になかった。
マッカーサーは、ペリーが目論みつつもなしえなかったことを実現しようとしたのであった。
「日本という帝国は、昔からあらゆる面で有識者に並々ならぬ関心の的となってきた。
加えて、二〇〇年来鎖国政策は、この珍しい国の社会制度を神秘のベールで覆い隠そうとした結果、日本への関心はますます高まった。
キリスト教国の日本に対する好奇心はいまだ衰えることを知らず、様々な分野の熱心な研究家達の中には、当然、この自ら孤立を選んだ周についての知識を少しでも増したいと切に願う人々がいる。
」少しおいて、こう続く。
「いつか日本人をキリスト教世界に引き入れる日の来ることを願わずにはいられない」要するに、ペリー艦隊来航には日本をキリスト教国にしようという目論見があった。
当時、列強による植民地化が進む中、アジアにおいて、キリスト教国ではない国で植民地化されていないのはタイと日本だけだ。
一八五三年のペリー来航から九二年を経て、「多くの人々が正式にキリスト教に帰依している」と断言するに至ったマッカーサーは、その根拠となるデーターが間違いとも知らずに、ペリーたちの目的は達せられたと思ったに違いない。
一九四五年九月二日、戦艦ミズーリー号で降伏調印式が行なわれたとき、額縁に入れられたペリー艦隊のポーバンタン号の国旗が飾られていた。
科学技術という神ペリーやマッカーサーはキリスト教の布教を目論んでいたが、期待したほどには成果が上がらなかった。
韓国やフィリピンのキリスト教信者数を考えれば、失敗したと言っていいほどだ。
多神教の神道と、他の宗教に寛容な仏教が中心の日本にあって、日本が受け入れた一神教があるとすれば、それは科学技術である。
アメリカとの戦いに敗れた日本は、敗戦の原因を科学技術の差だと思い知った。
その思いは、万人に共有された。
科学技術は戦後の日本で、これまでの宗教の役割を果たした。
科学は万能で、世界の構造を解き明かし、人々を幸せにする。
そう人々は信じた。
そう信じることで、いまそこにある苦渋を堪え忍び、楽しみを先送りにすることができた。
かつて、あの世の存在を信じることで、この世の苦労を堪え忍んだように。
一九七〇年の大阪万博は、科学技術という神が未来という夢を分け与える最大の宗教行事であった。
時が過ぎ、約束された技術は確かに手に入ったけれど、いつまでたっても科学技術が約束してくれた幸せで楽しい暮らしはやってこないばかりか、昔は父親だけで一家を養えていた生活が、夫婦二人働かないと維持できなくなってしまった。
科学は完全なシステムを人工的に作り出すことを目指すため、人工的なものこそ完全であるとする。
しかし日本人は自然こそが完全なシステムであるとしたため、二つの考え方は相容れないものだった。

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